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Channel: 日々楽々 ~旅~
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クネイトラの跡

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住宅地のど真ん中で迷ってしまった。
閑静な家々が並ぶこの区域はそこに住んでいる人の位を表すかのように、
警備員、私服警察が番犬のように各家の前に突っ立っている。


その内の一人に政府役所の場所を尋ねると
親切にもその場所まで連れて行ってくれた。(警備はいいんやろか?)


役所に着くと別の警備員が建物の前に立っていた。

「クネイトラに行くための許可書を申請しに来たんやけど・・・」

「何時?」

「今日行きたい」

というと、ちょっと待ってろと言って、
役所の中に消えていった。

10分もしない内に許可書を手に持って戻ってきた。
宿で調べた情報よりもずい分早めだった。


クネイトラはシリア南西部にある都市で
ゴラン高原の谷間の内部に位置し、イスラエルとの国境のすぐそこにある。


この地域は1967年までシリア領だったが、イスラエル軍に侵略され、
その後、両国が奪回を繰り返したが、74年イスラエル軍は撤退の際、
この町を徹底的に破壊していった。


シリア政府はイスラエル軍の残虐行為を世界に訴えるため、
町を修復せず、そのままにしている。
当のイスラエル政府は、そのシリアのやり方を非難し、
町が破壊したのは両軍の攻防の結果であることを主張し、
シリア側が自ら町を破壊し、それをイスラエル軍の破壊行為に仕立て上げている。
と反論しているが、その真相はここを訪れただけのオレにはわからん。


旅行者でもクネイトラを訪れることは可能だが許可書が必要。
代理店なんかでたまに許可書はいらない。
なんて言われることもあるけど、絶対必要です。


ソマリエ・バスターミナルで、
クネイトラ行きのセルビス(乗り合いタクシー)を拾う。
ダマスカスからは約一時間弱。


一時間弱のバス代がSYR20(40円)なのは、さすがシリア。
クネイトラ手前の町で、バスを乗り換える。
数人いた乗客もひとり、ふたりと降車していき自分一人になった。


二つあるチェックポイントのふたつ目に来た辺りで、
ドライバーが警備のおっちゃんとモメだした。
情報ではここで、公認ガイドが乗車してくる予定なんやけど一向に現れない。
ドライバーはしきりに腕時計と後部座席を指差し、
「一人の旅行客の為に何十分も止まってられるか!」
と言わんばかり。


我慢の限界に来たドライバーは、
警備のおっちゃんに交渉した後、
オレをここに残し、引き戻すことを宣言した。
警備のおっちゃんも、こっちに来な。と手招きしている。


チェックポイント横にある小屋で
警備の人間数人に囲まれ待機するオレは、
通りかかる関係者から見ると完全になんかやらかしたヒト。


しばらくすると案内人らしき若い男がやってきた。
歩きで、町を案内してくれるらしい。
そんなに英語が喋れるわけでもなく、公認ガイドかどうかは不明。


天気もよく歩きも悪くない、
通行人、通行牛もその辺を歩き回り変にゆったりした時間が流れている。

しかし歩き始めて数分もすれば、
クネイトラがどういった町であるかを思い出さされる。


粘土をグーで潰したかのような、いびつなひしゃげ方をした建物、
銃弾、爆撃でスカスカになった建物、
悪ガキの実験台になったカエルのように
丸焦げになりひっくり返った車は、この長閑な風景を完全に無視している。


案内人は、特に歴史を語るわけでもなく、
通り過ぎる建物がどういう建物であったかを教えてくれるだけ。


数か所回った後は、教会跡へ。
他の建物に比べあまり破壊の跡がない。
外壁には兵士か一般市民が描いたと思われる兵士の画が。



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それとは対照的に、
教会の後に行ったモスク跡はしっかりと破壊されていた。
屋根が吹き飛んでいる。



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他にも屋根が未だに残っている建物には、
丁寧に天井にまで銃弾が撃ち込まれている。



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案内人によれば、まだクネイトラに住んでいる人もいて、
案内人自身もクネイトラ出身で、
大学の学期中だけダマスカスへ行くらしい。


歩きまわっている時に見かけた
通行人・通行牛もここに住んでいる人らしい。



一番破壊がひどかったと言われる病院へは、
遠かったのか、めんどくさかったのか、
訪れることなく、40分ほどのガイドを終える。


案内人にお礼を言って別れると、
男は警備員に向かって何か言い、歩いて草むらの遠くに消えていった。




2010年現在、
シリア政府はここクネイトラに破壊を記念する博物館を建てているらしい。



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